
――春。教室の隅で文庫本を読む文学少年・春川は、金髪ピアスの不良・黒瀬と席が隣になったことから、静かで奇妙な関心を抱く。
誰とも話さず、どこか冷たい態度の黒瀬。けれど、ふとした仕草のやさしさに気づいた春川は、少しずつ彼との距離を縮めていく。やがて言葉を交わし、詩集を読み合うふたり。
だが、春川の幼馴染・瑞樹の登場をきっかけに、黒瀬は突然、春川から距離を取るようになる。
「お前は、俺なんか相手にしなくていいだろ」――
胸に刻まれたその言葉の真意を、春川は雨の帰り道で問い直す。不器用で優しく、傷つきながらも誰かを想うふたりの、静かでまっすぐな初恋譚。
春の泥にまみれた手でも、きみに触れたい――