
あらすじ
花街に立派な楓の木を擁した見世がある。
楓は季節ごとに美しい色に変化し、道行く人の目を楽しませていた。
見世には男も女も出入りをしている。
男娼を抱える陰間茶屋だ。
名を、楓屋と言った。* * * *
楓屋の男娼、博(ひろし)は化粧師の秀雄(ひでお)に惚れていた。
他の男を誘惑するための化粧を、惚れた男に施される日々。
恋心を殺し、彼と過ごす僅かな時間だけが博の心の支えだった。
望まない相手に抱かれながら、想い慕うのは一人だけ。ある日、博は乾いた咳をするようになった。
体調の変化に真っ先に気付いたのは秀雄だ。
その日から秀雄との心の距離が近づいたように感じる。
だが、博の体は次第に、病に蝕まれていく――