

読み切りゲイ小説三作収録。
『握り心地』
★★★
おれは両手使って握り心地を確かめた。熱くて、かたくて、弾力があって、ピクピク脈打っていて、湿っていて、太い、この握り心地……。またため息が出た。
おれはこいつが大好きなのだ。男のチンチンほど握り心地のいいものがこの世にあるだろうか? そのうえ、握ってしごけばいっそうかたく張りつめたり、首を振って暴れたり、塩辛い先走り垂れ流したり、いいことずくめだ。ちなみに形や大きさへのこだわりはない。ついてりゃいいのだ。そりゃもちろん、太かったりかたかったりするとその分うれしいが、とにかく勃って、おれの手にこたえてくれれば、たまらない。★★★
手コキ専門の男が主人公。
とにかく握り心地が命。
いろんな男のいろんなものを握ってそのたびウットリ……。
職業はオーダー専門の鞄職人だが、仕事ほっぽり出してハッテン場に通いつめている。
そんな気ままな男が運命の相手と思うチ○チンの持ち主と出会って……。初出『バディ』。読み切り短編。ユーモアゲイ小説。握り心地命のあなたに。
『初めてなんスけど』
★★★
靴箱にスニーカー入れて鍵をとった。のれんをくぐって中に入ると、ロッカーの並ぶ広い部屋があって、男たちが何人か、たぶん五、六人いた。みんな腰にタオル巻いた格好の裸で、一斉に振り返ってオレを見る。思わずうつむいて、早足で受付に行って靴箱の鍵を出した。やっぱりこなきゃよかった。今なら出ていける。どうしよう?
「お客さん、二千六百円」
「は、はい、今出します!」
あわてて財布から金を出した。三千円渡してお釣りを受け取る。あ、この店員のおじさんにまでジロジロ見られてる気がする。やっぱり初めての客だってわかるんだろうか。童貞だってことも、見透かされてる気がする……、怖い。
そう、オレは童貞を捨てにここにきたのだ。★★★
男未経験の主人公がハッテンサウナにやってくる。
セックスもしたいが本当に欲しいのは出会い、と思いながらも、次々といろいろなタイプの男と関係を持ってしまう……。初出『バディ』。若い男の初体験小説。
『高嶺の花』
★★★
隣町のシネコンは平日の夜ってこともあってガラガラだった。俺たちの選んだ映画は他に数人しか客がいなくて、座席も離れていた。俺たちは後ろの方の座席で並んで座り、映画を見た。しばらくすると暗がりの中で彼が手を握ってきた。そうして頭を肩にもたせかけてきた。俺は映画どころじゃなくドキドキしちまったが、最後には慣れてきて、すげえ気分がよかった。
まるで本物の恋人同士だった。
映画を見た後は終夜営業のファミレスに寄ってメシを食った。そうして映画の感想を言い合った。他の映画のチラシを彼がもらってきていて、次はこれ見ようか?とか、恋人っぽい会話をした。町に戻る途中で車を停めてキスしても嫌がらなかった。軽トラの中で俺たちはセックスをした。やった後も彼は何度もキスをせがんできた。まるで本物の恋人同士のように……。★★★
ハッテン場で何度も見かけていたモテ筋の男。
すごくタイプだが金をとる「プロ」で、田舎町に暮らす八百屋の息子である主人公にとっては高嶺の花だった。
しかしその「プロ」の彼とそっくりな男が近所の古本屋で働いていることを知って……。初出『バディ』。
単館上映映画っぽい読み切り小説。
田舎町を舞台にした、ちょっと夢のあるお話。八百屋と古本屋の恋物語。