

せつなくもあたたかい系の短編を集めました。
『記憶喪失の男』
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「うー……、いいぞ」
低い声で呻きながらマドラーをゆっくり出し入れさせていた。なにしろスーツだからよけいに卑猥な姿だし、顔だちだって男っぽくてモテそうなのが、首まで真っ赤にしてあえいでいる。そこまでじっくり見ていたのに、気づくまでタイムラグがあった。
「あっ……」
思わず口を押さえて言葉を飲んだ。
高次?
よく見れば間違いなく高次なのだ。だけど十年ぶりだからなのか、とにかくだらしない雰囲気になってしまっていたからか、見違えた。高次は少し太ったようだった。デブじゃないけれど、三十男らしい肉付きのよさが目立つ。そのせいで、よけいにセクシーに見えるのだ。前よりずっと、全身から滲み出す何かがあった。男の性のオーラ、というのか……。◆◆◆
22の頃に付き合っていた男と十年ぶりに偶然の再会。男は事故に遭って記憶があやふやで、別れた理由も覚えていない様子。三十代になった二人はもう一度付き合い出すが、あの頃となにもかも変わっていて……。変わったのは相手なのか自分なのか。
初出『バディ』。『サーフィン』
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「今度、一緒に島に行こうよ、考さんもさ」
巨大なボードの間を歩きながら、和志は笑いかけてくる。どこまで本気で言っているのかわからないが、俺は軽く答えてやる。
「ちゃんとガイドしてくれるんならな。俺は英語ぜんぜんだから。あ、ただし、サーフィン教えようなんて考えるなよ」
「なんだ面白いのに。でもまあいいよ。オレのかっこいいとこ見せてやれるだけでもさ」
「自分で言うな」
こんなやりとりが最高に楽しいのだ。だけどやっぱり時間が気になった。はやくしないとアパートに連れていく時間がなくなる。俺は和志の体に触りたくて仕方がなかった。
アパートにつくと有無を言わさず裸にしてやった。和志は少し照れているが、俺の欲求には素直に従ってくれる。求められることもうれしいのだろう。それに体自慢の若い奴なのだから、俺に見せていい気分なのは間違いない。脱がせていく最中から和志は勃起していた。俺はニヤニヤしながら太ももを撫でた。そういえばもう日焼けが落ちてきているようだ。そうは思ったが、口には出さないでいた。しかし顔には出たらしい。
「もう日焼けがとれちゃってさ。オレって体質的に日焼けがすぐに落ちちゃうんだ。また白くなっちゃうよ」
和志はつまらなそうにこぼしていた。たしかによく日に焼けた和志は海の男といった雰囲気でたくましい。しかし服をはいでいく時、色白な肌があらわになる瞬間ほど、俺の心を締めつけるものはないのだ。
「色白だってセクシーだぞ?」
「でも、オレってサーファーなんだよ?」
思わず噴き出してしまった。和志はムッとして俺をにらむ。俺はそんな奴の顔を両手で挟んでキスしてやった。小さなことに一喜一憂する、若いこいつが愛しいのだ。◆◆◆
競馬場そばの立ち飲み屋の店主三十四歳が主人公。プロサーファーを目指す二十歳の若い男と出会い、惚れ込むが、年の差、考え方の違いが距離を生む……。ごついおっさんと若いサーファーの恋。
初出『バディ』。注意。他サイトにて『年下のサーファー』というタイトルで配信されているものと同じ小説です。
『おれの熱い穴』
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「今度、うちに遊びにくるか」
彼は照れくさそうに笑ってうんうんうなずいた。いかにももてそうで、もてすぎて嫌な奴になっていそうなタイプなのに、こんなに素直で、かわいい奴なのか。
おれは彼の耳元に顔を寄せて聞いた。
「おい、ほんとにおれなんかでいいのか?」
すると彼もおれの耳元で言い返した。
「すげえかわいいスよ」
「はあ? なに言ってんだお前?」
「さっき、指入れた時の顔」
「え?」
「恥ずかしそうに顔赤くしてるとこが最高にかわいかった」
「ば、ばか、マイッタな……」◆◆◆
淫乱旅館で出会った二十一の祐介と三十五歳のおれ。長く付き合えそうな、いい雰囲気の二人だが、若い祐介はどんな場所ででもおれに指を入れてくる……。
初出『バディ』。年の差カップルもの。